二日市温泉の歴史を語る上で、2023年2月に表面化した老舗旅館「大丸別荘」の衛生管理問題は避けて通れません。年に2回しか換水せず、公衆浴場法が定める塩素注入も怠っていた結果、基準値の最大3700倍ものレジオネラ属菌が検出された事態は、温泉業界全体に強烈な衝撃を与えました。
しかし、この逆風下で地元住民や温泉ファンが再評価したのは、博多湯と御前湯という2つの共同浴場が実践してきた愚直なまでの湯の循環管理でした。博多湯では、地下深くから汲み上げた湯を浴槽へ常時注入し、そのまま外へ溢れ出させる完全放流方式を採用しています。停滞する水域を作らない構造自体が、菌の繁殖を物理的に防ぐ防壁となっています。
一方の御前湯でも、保健所の厳格な指導基準に基づき、毎日の完全排水・浴槽清掃と残留塩素濃度の多段階計測が徹底されています。巨大な宿泊施設が抱えた構造的怠慢とは対照的に、共同浴場は「毎日顔を合わせる地域住民の命を預かる場」として、揺るぎない衛生倫理を維持し続けています。