1990年代後半以降、金具屋の知名度はサブカルチャーの隆盛とともに爆発的な広がりを見せました。
第一の波は、スタジオジブリの名作『千と千尋の神隠し』です。宮崎駿監督が直接言及したわけではないものの、夜間照明に浮かび上がる斉月楼の赤い欄干と幾重にも重なる屋根の造形は、観客の間で「油屋のモデルの一つではないか」と広く噂されるようになりました。
第二の波は、カプコンのゲーム『モンスターハンター』シリーズとの公式コラボレーションでした。渋温泉街全体が「ユクモ村」に見立てられ、金具屋の木造佇まいはゲーム内の温泉宿のリアルな具現化として、国内外から数万人規模の若年層ファンを誘致しました。
しかし、ポップカルチャーによる観光消費は、文化財保護という現実的な負荷と表裏一体です。
築近90年を迎える木造多層建築を現役の宿泊施設として維持するためには、莫大な維持補修コストが恒常的に発生します。
金具屋では、文化財保護と宿泊体験を両立させるため、宿泊者限定の「館内文化財ツアー」を毎夕開催しています。九代目や当代の当主自らが引率し、釘を一本も使わずに組まれた継ぎ手や、歪みのある手吹きガラスの歴史的価値を宿泊客に直接解説することで、来訪者の敬意と理解を育む独自の持続可能モデルを確立しています。