年縞(ねんこう)とは、季節の移り変わりによって湖底に堆積した薄い地層の縞模様を指します。春から夏にかけては珪藻などのプランクトンが死滅して白っぽい層を形成し、秋から冬にかけては周囲の山から粘土質が流れ込んで黒っぽい層を重ねます。この白と黒のセットが1年を示し、木の年輪のように正確な時間を刻むのです。
年縞自体は世界各地の湖や沼でも見られます。しかし、水月湖のように7万年・約45メートルにわたり一切途切れず、乱れずに保存された例は地球上で他に存在しません。この前代未聞の完全性を生み出したのは、水月湖が備える極めて稀な地形的・環境的条件でした。
第一に、水月湖には直接流れ込む大きな河川が存在しません。急激な洪水によって湖底の泥がかき乱される事態が過去7万年間にわたり回避されました。第二に、三方五湖の地形的特徴から、湖底近くの水が滞留して酸素が極端に欠乏した「無酸素層」を形成しています。これにより、湖底の泥を掘り起こして食べる底生生物が生息できず、ミミズや貝による地層の攪乱が起きませんでした。
第三の条件は、湖底の沈降運動です。通常、湖は土砂が堆積すると数万年で埋まって湿地化します。ところが水月湖の直下には活断層が走っており、堆積物が積もるペースとほぼ同じスピードで湖底が沈み込み続けました。結果として、水深を一定に保ったまま7万枚の頁が狂いなく積み重なる奇跡が成立したのです。