インターネットの掲示板や怪談サイトでは、「アルプス一万尺には恐ろしい裏の意味がある」「実は滑落事故で命を落とした登山者の鎮魂歌である」という不穏な言説が散見されます。
噂の根拠として挙げられるのは、主に次の2点です。
第一に、「小槍の上で踊る」という物理的不可能性です。「常識的に考えて踊れるはずのない場所で踊っているということは、すでに肉体を失った霊魂が空中に浮いて踊っている情景ではないか」という飛躍した解釈が怪談好きの間で定着しました。
第二に、北アルプスが日本有数の山岳遭難多発地帯である点です。槍ヶ岳周辺の岩稜地帯では毎年のように重大な滑落事故が発生しており、昭和初期の未発達な登山装備の時代には多くの若者が命を落としました。そうした史実と、第7番以降に見られる急激な天候悪化や危険箇所の描写が結びつき、いつしか「呪われた山岳歌」「死への誘い」といった都市伝説へと脚色されていきました。
しかし、当時の山岳会資料や登山史を精査しても、この歌が特定の遭難者を悼むために作られた記録は存在しません。過酷な自然環境に直面する岳人たちが、恐怖を打ち消し士気を奮い立たせるためのハイテンションな戯れ歌として歌い継いだというのが歴史的事実です。