近年の動物行動学およびバイオアコースティクス(生物音響学)において最も注目を集めているテーマの一つが、「鳥類の音声コミュニケーションにおけるパーソナリティ(個体差・気質)」の解明です。かつて鳥の鳴き声は、遺伝子に刷り込まれた定型的な本能行動に過ぎないと見なされていました。しかし最新のフィールド研究は、その前提を覆しています。
同種・同地域に生息するコジュケイであっても、音響ソナグラフで周波数や時間間隔を測定すると、顕著な個体差が存在します。ある個体は常に標準より高い周波数を用い、他個体の侵入に対して即座に激しいコールバックを行う「攻撃的・大胆(Bold)」なプロファイルを示します。一方で、別の個体は相手の出方を伺うようにコールバックまでの潜伏時間が長く、周波数の揺らぎが少ない「慎重・臆病(Shy)」な特性を維持します。
こうした「性格」の差は、単なる気まぐれではありません。厳しい自然環境下において、大胆な個体は良好な餌場をいち早く確保できる反面、タカ類や野ネコなどの天敵に見つかるリスクが跳ね上がります。慎重な個体は繁殖機会の獲得で後れを取るリスクを背負う代わりに、生存率を高めることができます。群れや地域個体群の中で異なる性格タイプが併存することこそが、環境変動に対する種のレジリエンス(回復力)を支えているのです。