津軽民謡といえば、荒波寄せる日本海や厳冬の北国を背景にした、津軽三味線の激しい連打と哀切極まる節回しが象徴的です。しかし、岸千恵子はそうした固定観念を根底から覆しました。正統派の民謡指導を受け、青森仕込みの強靭な喉を持ちながらも、彼女はステージを縦横無尽に跳ね回り、観客を手拍子の渦へと巻き込みました。
このアプローチは当時、伝統芸能の純血主義者からは異端視される向きもありました。しかし彼女の狙いは、堅苦しい民謡を誰もが楽しめる大衆歌謡へ引き戻すことにありました。ブラスセクションとシンセサイザーの効いた現代的なアレンジの上に、青森県民謡の泥臭いグルーヴを一切損なわずに乗せる離れ業。彼女の圧倒的な声量と天真爛漫なキャラクターが合わさることで、「千恵っ子よされ」は老若男女を熱狂させるエンターテインメントへと昇華したのです。