讃岐うどんの心臓部は出汁にある。香川の基本は瀬戸内海・伊吹島産のいりこ(白口煮干し)を贅沢に使い、昆布や鰹節を合わせたクリアな黄金出汁だ。滝音の出汁もこの系譜を忠実に守り、魚臭さを微塵も感じさせない澄明な抽出を実現している。
特筆すべきは、この繊細ないりこ出汁に合流する「肉の煮汁」の設計思想である。他店では肉の甘辛いタレが出汁全体を支配し、ベースの風味を塗りつぶしてしまうケースが散見される。しかし滝音では、カツオと昆布の底支えが強固であるため、肉の旨味が加わることで「甘辛い濃厚スープ」へと昇華する。
油揚げは出汁をたっぷりと吸い込み、噛むたびにジュワリと旨味が溢れ出す。ネギの鮮烈な辛みと天かすの香ばしさが加わることで、最後の一口まで舌を飽きさせない。この計算された調和こそが、単なる大盛りセルフ店とは決定的に異なる、20年間積み上げられた調味の妙技である。