肉のパサつきを抑える上で、食品科学における核心概念となるのが保水性(水分子を筋繊維内に保持する力)です。肉のタンパク質は通常、弱酸性(pH5.0〜5.5付近の等電点)で最も保水力が低下し、水分を保持できなくなります。ここから酸性側かアルカリ性側へとpHをシフトさせることで、肉は水分をスポンジのように抱え込みます。
中華料理のプロが多用する重曹(食用炭酸水素ナトリウム)は、肉をアルカリ性側へシフトさせる代表例です。水200mlに重曹小さじ1/2と塩小さじ1/2を溶かしたブライン液に豚肉を15〜30分浸すだけで、筋繊維が緩み、調理後も驚くほどプリプリとしたジューシーな弾力が生まれます。また、炭酸水に含まれる炭酸水素イオンも同様の作用を持ち、煮込み料理に使うと肉の結着組織をほぐして短時間でホロホロに仕上げる効果を発揮します。
一方、酸性側へのシフトと発酵の恩恵を併せ持つのが塩麹やヨーグルトです。麹菌が生み出すプロテアーゼがアミノ酸への分解を促して旨味を爆発的に増幅させ、ヨーグルトに含まれる乳酸が肉の筋繊維を緩めます。塩麹に一晩漬けた豚肩ロース肉は、単に柔らかくなるだけでなく、塩分が均一に行き渡ることで調理時の急激な脱水を防ぐという相乗効果が得られます。