歌詞のクライマックスで登場する「傷がもう増えることはない」という表現には、清水依与吏特有のリアリズムが宿っています。「過去の傷がすべて消え去る」という非現実的なファンタジーを彼は提示しません。人間が負った古傷やトラウマは、誰かに愛されたからといって跡形もなく消滅するわけではないからです。
しかし、相手が腕の中にいて、温もりを確かめ合える距離にいる限り、「新たな痛みが無軌道に増えることは食い止められる」。この極めて現実的で切実な認識こそが、リスナーの胸を締めつけます。愛とは万能の治療薬ではなく、吹き荒れる孤独への防波堤であるという視点です。
映画『オオカミ少女と黒王子』のクライマックスにおいて、恭也が自らの感情を認めてエリカを抱きしめるシーンと、この詞世界は見事なまでに重なり合います。言葉による牽制をやめ、身体の接触によって孤独の流血を止めること。それは傷つくリスクを背負い直す宣言でもありました。