音の歴史と並行して、文字として割り当てられた二つの漢字「寂」と「淋」には、決定的な象形文字としての断絶が存在します。この構造を知ることで、ニュアンスの違いは一目瞭然となります。
「寂」の骨格をなすのは「うかんむり(宀)」です。うかんむりは「家屋や建物、空間」を象徴します。これに細い・小さいを意味する「叔」が組み合わさることで、「建物の中に人気がなく、ひっそりと静まり返っている状態」を表す会意兼形声文字として成立しました。すなわち「寂しい」の本質は、空間的な静寂、人気のない広場、あるいは秋の夕暮れのような、客観的・空間的な静けさにあります。文芸の世界で称される「寂寥感(せきりょうかん)」という言葉が示す通り、そこには風景を外側から冷静に眺める視線が含まれています。
対照的に「淋」の部首は「さんずい(氵)」、すなわち水です。「林」は木々が立ち並ぶ様ですが、さんずいが添えられることで「水が絶え間なく滴り落ちる、雨がしとしとと降り続く」情景を意味します。ここから転じて、人間の頬を絶え間なく伝う「涙」が連想されるようになりました。「淋しい」という表記が醸し出す感情表現は、空間の静寂ではなく、内面から溢れ出る情緒の湿り気、泣き濡れるような主観的かつ個人的な孤独感に直結しています。