布を切断すると際限なく糸が抜け落ちるのではないかという恐怖は、多くの人が学生時代の家庭科で扱った「織物(布帛)」の記憶に起因しています。経糸と緯糸が直角に交差するシャツ生地やデニムは、端処理を怠れば指で引くだけでスルスルと糸が解けていきます。しかし、一般的なカットソーに用いられているのは「編物(ニット)」です。1本の糸をループ状に連続して絡ませる編み構造は、織物とは全く異なる物理的特性を示します。
一般的なTシャツの胴体部分に採用されているのは「平編み」、通称「天竺生地」です。天竺生地には、編み組織のループが持つ残留応力により、裁断面が自動的にくるくるとロールする「カーリング現象」が発生します。横方向にカットされた端は表側に向かって丸まり、縦方向にカットされた端は裏側に向かって丸まるという明確な方向性を持っています。襟元のリブ編み(ゴム編み)パーツを切り離した瞬間、胴体側の天竺生地は自律的に数ミリほど外側へロールし、裁断面の切り口を自らの内側に巻き込みます。この自然な巻き込みこそが、端処理を行わなくてもほつれが進行しない構造的な防壁として機能しているのです。